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デザイナーブログ


コメの価格高騰問題を見てデザインの適正価格を考える

デザインの適正価格の基準がここ十数年で確実に押し下げられた

まず、デザインにも適正な価格があります。

世間でコメの値段が高騰し、高くて買い控える消費者がいる一方で、コメ農家はようやく利益が出る価格になったと言う声も聞かれます。

安さを求める消費者の裏には生産者の苦しみがあります。

デザインの仕事を取り巻く状況はここ10年だけでも大きく様変わりしました。利便性を高めたことでしわ寄せが起き、恣意的な価格調整により価格のみの競争も続いています。

コメの価格高騰の問題で感じたデザインを取り巻く現状と適正な価格を考えます。

消費者の喜びは生産者の苦しみでもある

国内で収穫販売される「ブランド米」と呼ばれるコメの値段が5kgで4,000円や5,000円と跳ね上がり、消費者の間では高くて買えないと大問題になりました。

コメの価格高騰に伴い、通常は災害時などに配布される備蓄米、つまり古いコメを安く販売したものの、そのうちスーパーの店頭では売れ残るようになり、そんな中ブランド米の値段も徐々に下がり始めました。

コメの価格が高騰したことで感じたのは、これまで安値で販売されていたコメの価格は本当に適正だったのか?コメ農家に利益が生まれていたのか?ということでした。

一般的に、コメ農家は時給10円であるとか離農者が増えていると聞きます。

コメ農家は、販売価格が4,000円や5,000円でようやく利益が出るため決して高い金額ではないと言います。

そして大切なことは、現状の高い値段でも普通に違和感を感じることなく購入できるように賃金を上げ、景気の底上げをすることが国の役割であると言います。

その他にもコメの値段が高騰した原因は様々ありますが、コメの価格高騰がテーマではないので割愛します。

デザインの適正価格はすでに適正価格ではなくなっている

一方、デザインにも適正価格が存在します。

デザインはコメとは違い、多くの国民に等しく必要なサービスではないため、一般的にどの程度の金額が適正価格であるかよくわからないのが実情です。

デザイン会社やデザイナーによっても制作費に大きな差があり、決定的な価格はありません。

ここ10年ほどで様々なサービスが登場し、一部の人間が逸脱した低価格でサービスを提供するなど、サービスの質ではなく価格のみの競争が今日も続いています。

「5,000円でデザインします」などを謳い文句とする事業者や、昼間は別の仕事をしながら帰宅後に副業として格安でデザインを請け負う人もいます。

特に副業であれば、本業の儲けとは別に小遣い程度稼げればよいという安易な気持ちの人もいるでしょう。

実際どのようなカラクリで低価格でデザインを制作しているのかわかりませんが、これを一種のテクニックとして安易に捉えるべきではありません。確実にデザイン業界の価格を恣意的に歪めていると言えるからです。

このように一部の人間が平均的な制作料金を著しく下げることで、いびつな価格競争が激化し始めました。

消費者マインドとしては「なんだ、デザインは実際こんな安くできるのか?」と、従来までのデザイン費用を高く感じはじめ、安さを追求することにつながります。

クオリティや価値を一定の軸で判断しづらいデザインという分野では消費者に依存する部分が大きく、一度下げられた価格帯を再び押し上げることは非常に困難です。

クラウドソーシングの登場はネット上の自由競争を妨げた

数年前、突如として現れたクラウドソーシングという働き方はフリーランスにとってありがたく感じる人もいる一方、ネット上での自由な競争を阻害したことも事実です。

クラウドソーシングが登場する以前までは、たとえフリーランスでもWebサイトにSEO対策を施せば検索結果の上位表示が可能で、Web経由での問い合わせやデザインの依頼も数多くありました。

検索結果の順位は会社の規模や資本の大きさなどに一切関係がないとされていますが、現在上位表示されているのは大手企業や一定額の資本がある会社がほとんどで、フリーランスの小さなWebサイトが上位表示されることはほとんどありません。

クラウドソーシングを運営する会社であればSEO対策に多額の予算を充てられるため、優良な専門業者へ簡単に依頼することが可能で、デザイン関連のキーワードを独占できるでしょう。

一方、事業規模が極めて小さく予算がないフリーランスは、満足なSEO対策もできないため検索結果は大手企業などに勝てず、Web経由での仕事はここ5年以上一切来なくなりました。

Google検索以外にも広告活動の場はふんだんにあることは理解していますし、努力不足と根性論を展開される方もいるでしょう。

しかし、これまで依頼の多くをネットに依存していたフリーランスのデザイナーからすれば、かなりの痛手と言えるでしょう。

モノやサービスを安く提供する裏側には知られざる苦労が存在する

消費者にとって商品やサービスを安く利用できることは非常にありがたいことです。私自身も同等の商品やサービスであれば価格の安いものを選ぶ傾向にあります。

しかし、どのようなモノやサービスにも適正価格が存在し、必要以上に安く提供することは薄利多売につながり、提供者の利益が薄くなり、今後の商品の質やサービスの低下につながる恐れがあります。

また、誰か一人でも価格帯の均衡を著しく崩せば価格だけの競争につながり、業界全体にも悪影響を及ぼしかねません。

製造された製品を販売するのとは違い、デザインは依頼されてから創り上げるため、たとえ実力や実績があっても事前に良し悪しの判断は難しく、結局少しでも費用がかからないデザイナーが選ばれる傾向にあります。

価値や内容がわかりにくいデザインという商材は、消費者にとって価格の高低の判断が難しいです。A4サイズのチラシ両面を5,000円や8,000円で作成するなど実際には安すぎますが、ネット上では標準的な価格とされています。

例えば、紙面を構成するすべての素材やレイアウトなどが事前にしっかりと用意され、そのとおりに並べるだけの作業であれば見合う金額なのかも知れません。

しかしそれはレイアウト作業であって「デザイン」ではありません。デザインは素材を並べるだけの作業ではなく、その何十倍も考えて、悩みながら創り上げるものです。

「どうせ、パソコンをチャカチャカと動かすだけなんだろう?」そう考える人もいますが、実情はまったく違います。

コメ農家の苦労はコメ農家しかわかりません。
デザイナーの苦労も同じであり、理解されないためあえて口には出しません。

消費者は価格だけを見て高い安いと感じるものですが、コメの価格高騰問題を受けて、商品やサービスを支えるためには様々な苦労があるという背景を知ってもらいたいと思いました。

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