デザインを数多く出せば優秀であるというわけではない
1つの案件に数多くのデザイン案の提出を要求されることがある。多くのデザイン案を見比べて、その中から最良の案を見つけ出したいのだろう。しかし、単純に選択肢が多ければ優れたデザインに出会える確率も増えるのだろうか?
少なすぎる選択肢は論外だが、デザイナーとしてデザイン案を多く作ることが直接的な問題解決につながるとは思えない。
最初に思いついたデザイン案が最も優れているという考え方
デザイナー経験が長ければ、デザインを何案も要求された経験が何度かあるだろう。一度に5つものデザイン案を求められた場合、5案すべてに同じだけ全力を傾けることは難しく、すべてが優れたデザインとは行かない。
最初の1案目に考えたデザイン案が最良と呼べる理由は、打ち合わせの情報や資料をまとめ直し、最適なデザインの方向性を考えて落とし込んだ最初の案だからである。当たるも八卦当たらぬも八卦で多くのデザイン案を作るより、多くて2〜3案に全力を注いで良案を目指すほうが的を射た内容になりやすいと考えている。
デザインで伝えるべき内容や方向性はすでに決まっている
もし、提出されたデザインが1案だけならば、選べないだけでなく依頼者にも不親切であり、デザイナーとしては不足である。しかし、必要以上に多くのデザイン案を求める依頼者も理解できない。
依頼者が紹介したい商品やサービスに対しては、依頼者本人が最も詳しいはずである。商品やサービスの目的やターゲット像などを依頼者が決めていれば、自ずとデザインの方向性は見えるはずなので、本筋から外れ選ばれることがないデザイン案を数多く提出させる意図がわからない。
現在に至るまで、一度に数多くのデザイン案を提出させる慣習に疑問を感じず従ってきたデザイナー側にも問題はあるが、「たくさん作れば良いものが生まれる」などという法則はなく、むしろ薄めることにつながる。
選択肢が増えてもすべてが機能するとは限らない
1つのテーマに対して様々な切り口が考えられる多面的なテーマでも、本筋に従い凝縮された濃い内容のデザイン案は、せいぜい作れても数案程度である。デザイナーの技量不足と言われれば反論できないが、デザインの中心的な方向性が示された前提であれば、5案も6案も作成するのは蛇足である。
選択肢が増えれば増えるほど常に優れたデザインに出会えるわけではなく、選択肢が少なくても機能するデザインに出会える機会は十分にある。むしろ、制限された中だからこそ最適解を見つけ出すことにつながる。多くの情報を見比べて最良を判断したい気持ちはわかるが、デザインで大切なことは、ビジュアルや考え方以前に伝えるべき情報の中心を見極めて方向性を整えることである。