
様々な問題点が浮き彫りになった商工会議所のDM発送代行サービス
神戸商工会議所が実施するサービスの中に「DM発送代行サービス」というものがあります。
毎月商工会議所から届く「神戸商工だより」と呼ばれる冊子と共にPRの広告物を同封できるサービスなのですが、広告手法として以前より利用を考えていたため、2025年6月号で初めて利用してみました。

ズバリ利用した結果から言えば、期間中の電話やメールによる問い合わせはゼロ、Webサイトへの流入もわずか3件(DMによる影響なのかは不確定)のさんたんたる結果で、失敗でした。
唯一1件のみ仕事の依頼がありましたが、貸事務所の同室にいる会員様からいただいた仕事なので、同じ住所というよしみで反応されたのだと思います。
商工会議所がおこなうDM発送代行サービスは、集客ツールとしての利用価値や費用対効果があるのか?を実際に検証し、その結果や感想を以下に紹介します。
商工会議所のDM発送代行サービスとは?
まず最初に商工会議所がおこなうDM発送代行サービスを簡単に説明すると、商工会議所が毎月会員に届ける冊子と抱合せでチラシやパンフレットなどPR物を同封できるサービスのことです。

全国47都道府県に515箇所あるとされる商工会議所すべてでおこなわれているサービスではなさそうですが、主要な商工会議所では実施されているようです。
以下は、政令指定都市を中心に各商工会議所の会員数(広告のターゲット数)とサービスの利用料金を示しています。
■各商工会議所の会員数およびサービス利用料金(2025年7月1日調べ)
商工会議所 | 会員数 | 利用料金 |
---|---|---|
東京商工会議所 | 約85,000 | 880,000円 |
大阪商工会議所 | 約30,000 | 363,000円 |
名古屋商工会議所 | 約17,000 | 220,000円 |
京都府商工会議所 | 約12,000 | 145,200円 |
横浜商工会議所 | 約12,000 | 157,080円 |
神戸商工会議所 | 約12,000 | 187,000円 |
札幌商工会議所 | 約19,000 | 220,000円 |
北九州商工会議所 | 約10,000 | 121,000円 |
広島商工会議所 | 約9,700 | 121,000円 |
仙台商工会議所 | 約9,500 | 242,000円 |
静岡商工会議所 | 約13,000 | 110,000円 |
新潟商工会議所 | 約4,800 | 33,000円 |
新潟商工会議所 | 約4,800 | 33,000円 |
商工会議所の会員数は地域によりバラツキがあり、ごく小規模の商工会議所では費用対効果が感じられないため、サービスがおこなわれていないのかも知れません。
神戸商工会議所は横浜商工会議所とほぼ同じ規模の会員数で、料金的にも似通っています。
一方、東京商工会議所は送り届ける会員数が約85,000もあるため、料金も破格の880,000円となっています。
実際には、DM発送代行サービスを利用する料金以外にも、同封物を作成するデザイン費用と印刷費用が別途必要になります。
私は自らデザインしてネットプリントを利用して印刷し、印刷物を指定された場所へ納品しましたが、自ら作成できない場合は知り合いのデザイナーなどにデザインを依頼する必要があります。
■神戸商工会議所におけるサービス利用料金
神戸商工会議所DM発送代行サービスの利用料金は以下のとおりです。コート紙110kgのA4チラシ1枚が約8g程度ですので、A4サイズのチラシ1枚であれば10kg以内となります。
チラシ1部あたりの重さ | 料金(税込) |
---|---|
10g以内 | 187,000円 |
20g以内 | 214,500円 |
30g以内 | 242,000円 |
神戸商工だよりに毎月同封されているPR広告の多くはA4サイズのチラシがほとんどで、折パンフレットや冊子などは見かけません。
A4サイズのチラシ1枚あたりの配送料が約16円で、一般的なDM発送サービスを利用するより経費削減が期待できることが売りのようです。
■配布先内訳(神戸商工会議所の場合)

神戸市の場合は中央区が4,200事業所とダントツの会員数で、兵庫区や東灘区がそれに続きます。
業種別にみると全体の33%となるサービス業が4,000事業所で最も多く、全体の20%となる小売業も2,400事業所存在しています。
資本金は100万円以下の事業所が全体の42.5%で最も多く、大企業よりも中小企業や小規模の事業所が会員となっているようです。
■サービスの利用スケジュール
本サービスの申込みは、発行月の8日までに申込書を提出し、最長3ヶ月前から受け付けてもらえます。
申込数は毎月7件限定であるため、申し込み多数の場合は翌月などにずらされる可能性があるため、開催日が決まっていたり季節限定のサービスの場合は注意が必要です。
通常は平均4〜5件しかDMチラシが同封されていないから大丈夫だろうと思っていても、なぜか6月号だけ申し込みが多くて当初は枠が取れず、一時キャンセル待ちになってしまったので、扱う商材によっては注意が必要です。
同封する印刷物は発行月の15日までに折込などを専門におこなう会社へ送付し、同封作業完了後に各事業所へ3日程度で配送されます。
■実際の利用の流れ
同封する印刷物は申し込みの際に事前審査があるため、申し込みと同時にデザインを提出する必要があります。
私の場合は、2月初旬より仕事の合間にアイデアを考えながら少しずつ内容を詰め、当初は5月号に同封するはずが申し込みが4月18日になったため、結局6月号にずれ込んでしまいました。
申込みは「FAXおよびメールで」とあるもののメールアドレスが申し込み冊子に書かれておらず、仕方無くFAXで送信しました。
しかし、審査のために送ったデザインがFAXでは見えず、結局後日メールで送信するという二度手間がありました。
現在FAXなど利用していない事業所も多く、せめて送付先のメールアドレスは記載してもらいたかったですね。
チラシの審査は難なく通過し、4月26日にネットプリントで印刷を注文し、指定先へ送り届けました。
印刷内容は、A4チラシ両面カラーで12,000部、紙の種類はマットコート110kgで印刷料金は33,750円(税込)でした。
つまり、DM発送代行サービスの利用料金と印刷料金で、合計220,750円(税込)かかりました。
DM発送代行サービスを利用して感じた理想と現実
理想
約12,000もの会員数に送り届けられるなら、それなりの反響が望めるはずで、様々な業種や業態の事業所が存在するため、デザインという特殊なサービスであっても利用を考える事業所は一定数存在するはずだ、と考えました。
特定の業種に対するDMや不特定の消費者に向けたポスティングとは違い、BtoBに特化され、しかも一定の信頼が担保された商工会議所の会員へ送付されるため、心配や不安も少なく反応も取れるだろうと考えていました。
現実
一般的にDMの反応率は0.5〜1.0%程度と言われています。
しかし、日常的に送られてくるDMは初めて見る内容のものが多く興味本位でも開封しますが、毎月届けられる商工会議所の会報に目新しさはなく、隅々まで目を通さず開封さえしないなど、実際の開封率や社内での閲覧者数もかなり低いのでは?と感じました。
そして、BtoBの集客ということで対象はある程度絞られていますが、デザインのように局所的で必要性が低いサービスは多くの事業所で関心があるサービスではないので、反応率が更に押し下げられると思いました。
商工会議所の会報が届いてからを勝手にシミュレーション
毎月手元に届けられる商工会議所からの会報が、到着後に社内でどのように扱われているのか、勝手に想像してシミュレーションしてみました。
会員の大部分は中小企業や小規模事業者が占めるため、社員数は十数人から数十人規模を想定します。
まず、朝早く来社した社員や事務担当者が届けられた郵便物を手にして受付まで持って上がり、各部署や個人ごとに郵便物を分けた後に手渡すでしょう。
商工会議所の会報のように特定宛の郵便物でないものは、社長や上役にだけ回覧されるか、その場の判断で社内の本棚などに立てられるかも知れません。
そして、同封されているチラシはその場で目を通され、不要ならば独断で処分されるなど回覧性は低く、人目に触れる機会は極めて少ないように感じます。実際、社員の多くは商工会議所の会報が届いていることさえ知らないかも知れません。
結論
今回、フリーランスデザイナーという立場で「仕事の依頼獲得」を目的にDM発送代行サービスを利用してみました。
約12,000もの会員に送られる会報誌ですが、以下のような事が考えられます。
- ・毎月じっくり目を通す事業者は少なく、開封さえしない場合がある
- ・たとえ開封されても一部の社員にしか見られていない可能性が大きい
- ・会報誌は本棚などに残されやすいが、同封チラシはその場の判断で捨てられる
- ・広く多くの人間が必要と感じる商品やサービスでなければ反応率は極端に低い
自分自身のことを考えても、入会して数ヶ月は会報誌に目を通していましたが、特に忙しい時期は開封せず見ないことは多いです。同封のチラシも瞬間的に判断し、関係がない情報については即座に捨てています。
反応率が低かった要因の一つはデザインという商材そのものにあり、特に小規模事業者や店舗営業であれば、印刷物を自らパソコンで作ることが多いと思います。
もしDM発送代行サービスを利用するなら、デザインのように必要とする人間が限られる特殊な商材ではなく、広く多くの業界に関連性があり興味を持たれる内容なら反応が取れるかも知れません。
また、これはとても重要な考え方なのですが、このサービスは会報誌が届けられてから約1週間〜10日間限定のサービスだとも言えます。
なぜなら、会報が手元に届いた後に放置したとしても数日以内には開封され、必要だと判断すれば何かアクションがあるはずだからです。
一度開封すれば何度も目を通すことなど考えられないため、月の後半になれば問い合わせが来ることなど皆無です。
利用してみて、結果的に費用対効果はかなり薄かったと言わざるをえません。
今後、商工会議所のDM発送代行サービスを利用しようと考えておられるのなら、未開封のまま廃棄されたり目を通す人数が少ないだろうという予想や、全体的にそれなりの費用がかかること、そして広く多くの業界で必要とされる商材であるかどうかを考えることが大切だと思います。