デザインの作成で最も重要なヒントは
技術力より情報を咀嚼して吐き出す作業

デザインの実務作業でのヒントやコツを紹介

良いデザインとはキレイでカッコいいものを作る作業ではありません。特定のターゲットに対して伝えるべき情報を正しく届ける行為そのものであり、集客や売上向上など目的を達成するひとつの手段です。

デザイナーそれぞれが経験を重ねる中で自分なりのデザインのヒントやコツを見つけて実行します。ここで紹介するのは単純な技術論や方法論ではなく、実際に経験して感じたデザインにおけるヒントやコツを時系列で紹介しています。

初めてデザインを依頼する人の不安や疑問を取り除くこと

最初の電話連絡では、不安を払拭できるような情報を提供するのがコツ

デザインの依頼や相談はお問い合わせフォームやメール、電話で受けることになります。電話による問い合わせからは、よくも悪くも多くのことを学べます。デザインの依頼者が最初に知りたい事は料金や工期、作業の流れだろうと思っていましたが、どうやらそうでもなさそうなのです。フリーランスとして独立したばかりの頃は相手が何を求めているのか理解できませんでしたが、最近になり少しずつ分かり始めました。

人生で初めてデザインを依頼する人の95%以上は「デザインを作ってもらいたいのですが、どうすればいいですか？」と尋ねて来られます。この「どうすればいい」というフレーズに長年悩まされましたが、最近になって「どうすればいい」と尋ねるのが、デザインを依頼すること自体どうすればいいのか理解されていないと気づきました。それ以降は、正式に依頼される前に料金や作品集の内容を確認していただき、現在の問題点や目標を考えてもらい、デザインに必要な情報や資料などを揃えてもらうことをお願いしています。

電話連絡があった際に対処するコツは、少しでも依頼者の不安を消すためにあらかじめ必要な情報を提供するということです。

デザインの打ち合わせには制作に必要なヒントがたくさん隠れている

オリジナルの打ち合わせシートとICレコーダーで、言葉に隠されたヒントを見付けるのがコツ

正式に仕事を受注すれば、直接対面での詳細な打ち合わせをします。打ち合わせの必要がないほど簡単な内容であったり遠方の依頼者であれば、必要な資料やデータをメールで送ってもらいメールと電話で作業を進めます。より多くの情報を収集するためには直接対面して打ち合わせすることが非常に重要です。当日は打ち合わせの時間よりも30分ほど早く現地を訪れて、周辺の環境などヒントを見つけるのもコツです。現地の周辺環境や担当者の人となりなど細かなニュアンスもデザインの発想に役立つからです。

打ち合わせにはICレコーダーや自作の打ち合わせシートが役立ちます。一般的にはメモ用紙で十分だと考えがちなのですが、特にICレコーダーは聞き逃し解消や内容伝達のトラブルを防ぐ効果があるため、打ち合わせがあれば必ず持ち歩いています。しかし後から聞けるという安心感で集中力を失わないように、ICレコーダーは必ず補助的な利用に留めています。

また、初めての取引先との打ち合わせでは緊張するため、ICレコーダーに加えて自作の打ち合わせシートも持参しています。打ち合わせで必ず聞くべき項目を事前にまとめておけば、緊張のあまり聞き漏らすことが少なくて済みます。

デザインは集めた情報を分解･咀嚼・吐出す作業で80%が完了

集めた情報を一度バラしてから組み立て直すのがデザインのコツ

打ち合わせで様々な情報を手にすればパソコンですぐに作業を始めたいところですが、まずは頭と手を働かせます。
1.打ち合わせ内容や資料の情報を一度バラバラに細分化し、
2.関連情報を追加してボリュームアップを図り、
3.集めた情報を十分咀嚼してから優先順位を付けて吐き出す。
この一連の作業をすることで情報の重要度が分類されて全体像がつかめるため、後のパソコンでの作業を簡単に進めることにつながります。

咀嚼をして吐き出す作業は超アナログ的で非常に地味に見えますが、デザインを作る上で最も重要かつ時間を掛けるべき作業だと感じています。情報を十分にまとめきれていない状態でパソコンに向かっても、全体像がつかめていないため情報の強弱がない平面的なデザインになってしまいます。「分解・咀嚼・吐き出し作業」のプロセスこそ良いデザインを作るヒントです。

残り20%で一気にデザインを完成させることがコツである

デザインの骨組みに情報を肉付けし、配色・フォントで彩りを添えるのがコツ

分解・咀嚼・吐き出し作業を終えてデザインのアウトラインを手描きできれば作業全体の80%は完成したも同然です。ここからは残りの20%でパソコンを使用した肉付け作業を行います。手描きしたデザインのサムネイル画をそのままパソコンで再現できることは稀です。通常は要素の配置換えや並べ替えなど様々な調整が必要となりますが、デザイン全体の雰囲気を保つ事が最優先です。

デザイナーとしての長年の勘と経験から頭に浮かんだ最初のデザイン案が最良のデザインとなります。初稿を提出してから何度も修正を繰り返したデザインは、確実にクオリティが落ちて醜くなります。デザインにひらめきは大切です。たとえ複数案の提出を求められても、最初にひらめいたデザイン以上に優れた案は出せないものです。

最近のデザインソフトは優秀になりシンプルな表現から凝ったデザインまで何でもできますが、テクニックに頼りすぎず情報を伝える事に専念して見た目より内容で勝負すべきです。ラフ案を描き終えればデザインを一気に完成させるのがコツです。

作成したデザインを一日寝かすことで新たなヒントが見つかる

画面と印刷物、昼間と夜間など感じ方や見え方を観察するのがコツ

制作途中や完成時には必ずプリントアウトしてレイアウトの確認や微調整をします。パソコンの画面上でバランスや配色が良くてもプリントアウトすると印象が変わります。

何度もレイアウトチェックで印刷するため、コスパの面からもインクジェットプリンタがオススメです。特に食品や人物など色合いを重要視するデザインの場合は、入稿前に一度だけ街角のプリントサービスにある色調整されたカラーレーザーで出力しています。

デザインの提出までに十分な時間が取れない場合を除き、最終確認のために最低1日は時間を空けるようにしています。レイアウトのバランスやデザインの見え方は場所や時間により異なるからです。

住む場所を決めるため朝夕物件を訪れて印象を確かめるように、日中の明るさで見る印象と夜間や室内で見る印象の違いを感じ取ります。また、設置場所が決まっている場合は実際にプリントアウトした印刷物を置いて確かめることもあります。矢継ぎ早に作業を進めた結果、後日仕上がりを見て違和感を感じたことが何度もあり、複雑な内容のデザインほど時間に余裕を持って何度も見直します。その都度デザインを出力して何度も見直しすることは、スムーズに制作を進めるためのコツです。

デザインを作成するためのヒントとコツのまとめ

対面による打ち合わせに大きなヒントがあり、アナログ作業を採り入れるのがコツ

見た目の美しさだけでデザインを評価する方は多くいますが、デザイナーにとって大切なことはデザインソフトを使いこなす技術や美の追求ではなく「物事を深く考えてまとめられること」、そして情報をターゲットへ的確に届ける努力をすることです。

デザインは常に結果を求められ、たとえ一生懸命デザインに取り組んで依頼者を納得させても、反響や影響力が乏しければ完全に失敗です。デザインを結果につなげる最大のコツは集めた情報を分解して咀嚼し、吐き出してカテゴライズすること、そして「ひらめき」です。